地域包括センター
どうやら、父は昼夜の区別なく、スイッチが入ると異常な行動を起こし、不倫妄想や、もの盗られ妄想にかられ、暴言、暴力行為に及ぶらしい。
母から聞くその様子は、あまりにも常軌を逸していて、認知症というよりは、精神病ではないのかと思うほどで、どうしたらいいのかわからなかった。
とにかく、認知症の診断のできる病院を受診することと、介護認定の手続きをしなければならないと思い、市のホームページを閲覧し、申請用紙をダウンロードしたが、
(難しい!)
(なんだこれ。どう書いていいのかよくわからない!)
介護保険課に問い合わせると、居住地の管轄の地域包括センターが窓口となっていることを知らされ、さっそく、両親の住む地域のセンターを調べ、電話をかけた上で、訪問することになった。
何もわからず訪れたのだが、第一印象は、「あたたかい」ということ。
とても親身になってくれ、話を聴いてくれる。
悪鬼のようになった父に憎悪さえ抱いている私を、責めないばかりか、やさしくねぎらい、いたわってくれていることが伝わってきて、話をしていても、包み込まれているようなのだ。
マニュアルがあるのだろうと思いながらも、その対応に感銘を受け、癒された。
父は認知症ではなく、精神病ではないのか? という私の疑問に対しても、市で作成したわかりやすいガイドブックを広げ、認知症によく見られる症状であることを説明してくれた。
別人のように凶暴になり、錯乱する父は、もはや父とは思えず、なんの罪悪感もなく、薬で鎮静させるしかないと短絡的に思いこんでいた私に対しても、あくまでおだやかに、
「そうなんです。でも、薬で抑えてしまうと、おとなしくはなりますが、今度は、何もできなくなってしまうんです。身の回りのこともできなくなります。いったんそこまで落ちると、もう二度と元には戻らないのです。すると、今度は身辺介護に手がかかるようになります。だから、興奮と暴力が抑えられ、身の回りの自立が保てるという、そのちょうどいいバランスのところでお薬を処方しないといけないのですが、人によって効き方が違うので、難しいのです」
と、諭すように話してくれ、おかげで目が覚めた。
父の暴挙を防ぎたいと思うあまり、安易に薬でおとなしくすればいいと考えたが、それは父を廃人にするのと同じことだったのだ。
(…………)
つづいて、地域包括センターの担当者が伝えてくれたことも、とてもわかりやすかった。
父の認知症の進行を少しでも遅らせるためには、病気の母とだけの生活では、会話も少なく不十分なので、脳に刺激を与えるために、リハビリ的な訓練が必要なこと。
母の心身の休息のために、父と離れる時間が必要なこと。
それが可能なデイサービスを受けるためには、介護認定を受ける必要があること。
驚いたことに、地域包括センターでは、介護申請の代行をしてくれるのだという。
申請書をどのように書くのかに頭を悩ませなくても、この場で一緒に作成してくれる!
私が仕事を休んで市役所に行かなくても、変わりに申請してくれる!
なんというサービス!
市役所に電話をしたとき、地域包括センターが窓口だと言われ、たらいまわしにされたように感じて、内心、ムっとしたのだが、至れり尽くせりのシステムだとわかった。
何もわからない市民がいきなり申請しようとしても、役所の書式はわかりにくい。
窓口が一つでは、全域からの市民の問い合わせに、とても対処しきれない。
市を複数の地域に分け、それぞれに窓口を置くことで、市民も気軽に足を運べるし、職員も細やかな対応ができる。
このように、職員が状況を聞き取り、必要な申請を見極め、書類の記入に立ち会うことで、不備や差し戻しがなくなり、結果的に審査までの時間を短縮できる。
すごいシステムだと感銘を受けた。
難点は、行政という立場であること。
次の大きな課題である認知症の治療について、いったいどの病院がいいのかを聞いてみたのだが、行政の立場では話すことができないと言われ、それはそうだと納得した。
情報はあるはずなのに、教えてもらえないのだ。
口コミが欲しい!
情報が欲しい!
地域包括センターを訪れたのは、平成29年6月30日(金)の夕刻。
週明けに介護申請をするので、それから二、三週間で、面談だそうだ。
〈みみ〉