がんばるのは今じゃない

父がまさかの認知症。

がんばるのは今じゃない

 「がんばるのは今じゃない」

 

施設相談員のKさんに言われて、ずっと張りつめていたことがわかった。

力みが抜けていく。

 

「がんばるのは今じゃない。これから、もっともっと大変になるの。お父さん、身体がお元気だから。先は長いよ。十年! もっとかも」

 

(がんばるのは“今“じゃない)

 

十年も張りつめたままじゃいられない。

父は、まだ、自分で着替えもできる。ごはんも食べられる。歯も磨く。ひげもそる。おふろも入る。トイレも行ける。

今、すでにいっぱいいっぱいになっていたら、この先、もっと介護が必要になった時、どうなるのだろう。

今はまだ、私は私のことをしていいのかも。

私は、自分の子供たちのことを考えていいのかも。

 

「がんばるのは今じゃない」

 

それは、「寿ぎ」のようで。

「呪い」のようで。

 

長い長い……

 

〈みみ〉