がんばるのは今じゃない

父がまさかの認知症。

駆け込み寺

Uさんから紹介されたKさんを頼って、診療所に電話をかけた時、私は、診療所とデイサービスの事務所が別だということも、Kさんがどういう立場の人なのかもわかっていなかった。 ただ、父の困った行動を止める薬をもらいたいという一心だった。 診療所の受…

さしのべられる手

父の興奮や暴言、暴力などを止める薬を出してもらうために、どの病院に行けばいいのだろう。 検索をすれば、幾つかの病院や診療所があがってくるが、実績や評判などは、まったくわからない。 認知症は、いろいろなことを記憶できなくなり、直近のことを忘れ…

地域包括センター

どうやら、父は昼夜の区別なく、スイッチが入ると異常な行動を起こし、不倫妄想や、もの盗られ妄想にかられ、暴言、暴力行為に及ぶらしい。 母から聞くその様子は、あまりにも常軌を逸していて、認知症というよりは、精神病ではないのかと思うほどで、どうし…

薬が効かない

「認知症の進行を遅らせることができると言われている薬」を脳外科で処方してもらい、一息ついたような気がしていたが、実際はそうではなかったらしい。 「らしい」というのは、私は両親とは離れて暮らしていたので、認知症の発症に伴う父の変化を言語化でき…

最初の検査

もの忘れ的な症状は、もっと前から始まっていたのだと思う。 だけど、八十歳を過ぎ、会社に行くわけでも、責任のあることを任されているわけでもない父と、亭主関白な夫にずっと仕えてきた闘病中の母にとって、少しくらいやりとりにとんちんかんなことがあっ…

実家に単身赴任

夫と二人の子どもたちと離れ、実家でお雑煮を作り、両親と食べる元旦。 マンションで、朝の光が差し込む南東向きのリビングで迎えるお正月と違い、築四十年の日本家屋の北側の台所は暗くて寒い。 81歳の父と78歳の母に年越しそばを作り、紅白歌合戦を見…

がんばるのは今じゃない

「がんばるのは今じゃない」 施設相談員のKさんに言われて、ずっと張りつめていたことがわかった。 力みが抜けていく。 「がんばるのは今じゃない。これから、もっともっと大変になるの。お父さん、身体がお元気だから。先は長いよ。十年! もっとかも」 (…